「ミアシャイマー」の思想・ネオリアリズムの国際政治学(YouTube)のブログ

リアリスト学派の国際政治学による日本の外交・国防、国際情勢の分析

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天安門事件外交文書(日本政府が中国を擁護)が意味すること③(日本は国家として機能不全状態にある)

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前回の記事(その2)↓

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今回もこの外交文書について論考してみたい。

その1では日本には外交主権がないこと、その2では米国が対中宥和政策という外交政策を選択した理由(米国の世界支配という国家戦略と日本封じ込めという対日戦略)を論じた。

前々回の記事(その1)↓
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日本が対中外交で失敗した原因として、外交主権喪失以外の原因を考察する

今回は対中宥和政策という失策を日本が選択することになった要因に関して、「日本には外交主権がない」という以外の別の要因を考察していく。
つまり(外圧ではなく)日本の内部からこのような誤った政策を(積極的に)選択する力が働いていたのかどうかである。

このような外交的失敗を日本が犯したことの原因の一つとして日本の「経済優先姿勢」がよく挙げられるが、結論を先に言えばこの原因の深層には日本という国が抱えている国家として非常に深刻で大きな(構造的)欠陥がある。

その欠陥を明らかにするために、日本が地政学的に見てどのような状態に置かれているのかを理解することから始める。


日本は三覇権構造の中にある(地政学的に世界で最も危険な場所にいる)

日本は米中露という三覇権国(軍事で他国を侵略する国)に包囲されているという地政学的に極めて危険な場所に存在する。
それゆえに、それら3カ国からの侵略を防ぐことが日本国が生存するためには必須のことになっている。
言うなれば、日本は侵略を防ぐための有効な方策をとらなければこれら3覇権国から侵略され滅亡させられてしまうという状態に置かれているのである。

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三覇権構造の中にいる日本
(地図で見れば一目瞭然だが米露中に取り囲まれ
地政学的に非常に危い位置に存在している)

その三覇権国のうちの米露からの侵略を阻止するために、(その賛否や功罪や手法は別として)明治維新日露戦争や太平洋戦争を日本は行ったのである。
また中国が核実験に成功した時には日本政府は本気で核武装の検討をしていた。
つまり三覇権国の脅威を意識した時から(近代以降)、日本国は常に少なくとも「その脅威に対処しようとする姿勢」は持ち続けていたのである。
強力な他国の侵略から国民を守るためには国民を一つにまとめる必要があり近代国民国家が生まれたのだから、これは国家として至極当然で必要不可欠な姿勢である。
以下ではそのような姿勢が「天安門事件当時の日本国の外交」からは完全に消えていたということとその原因を説明していくことによって、日本が抱える「国家として非常に深刻で大きな(構造的)欠陥」を明らかにしていく。

 

米国の外交政策決定のプロセスとは?

「対中宥和政策」という外交政策を日本政府が進んで選択しようとしたその原因を知るには、外交政策を生み出す「国の構造」というものを理解する必要がある。その構造を米国と比較してみることによって日本がどのような構造を持つ国であるのかを明確にし、対中外交の失敗の原因を突き詰めていく。

対中宥和政策を推進する主要な力のひとつは経済界からの圧力であるが、このこと自体は特に責められるべきことではない。なぜなら経済人は利益を得ることを目的にして活動している人たちであるから日本政府に制裁解除を要求するのは当然の行為である。また多額の政治資金を供給できる能力などを持つ大企業が政治家と癒着し自分たちに有利な政策を行うように政治家を働きかけることも民主主義の制度の中では不可避であるから責められるべきことではない。それは米国も同じである。


「経済優先姿勢」や「(中国が経済的に豊かになれば民主化するという)見通しが甘かった」ということだけを見れば、日米両国とも同じ間違いを犯したということになる。
しかし、(この日米共通の)外交政策(対中政策)を生み出した「構造」は米国と日本では大きく異なるのである。


それを理解するために、まず米国のその「構造」を見てみよう
その2ですでに論考したように米国にとって対中宥和政策は世界支配という国家目標を実現するため、つまり米国の国益のための選択であった。
そして米企業(米資本)が対中宥和政策によって利益を得ようとすることは、同時に米国の国家目標の実現(=国益)に寄与するものである。国家戦略という枠組みの中で米企業が動いている。米企業は「国家が主であって企業はその従という構造」の中に存在すると言える。「構造」は「米政府と米企業との関係性」と言い換えることもできるだろう。

また今回の論点からはずれるが、この「構造」はいわゆる国際金融資本陰謀論のみならず、大資本家や大企業が米国(などの大国)を意のままに操れるという「陰謀論」が嘘であることの根拠のひとつにもなる。
企業の利益と国家の利益(=国益)がいつも必ず一致するとは限らない。国家は私企業のためではなく国益のために動く存在だから、両者の利益が一致しない時は普通の国国益を優先して動く。国益を無視して私企業の利益を優先するような国家は国益を第一優先にして動く他国との競争に敗北し滅びるからである。

 

「日本の国防政策」と「国防意識の欠落した日本政府・官僚」

 

次に日本の外交政策を生み出すその「構造」を見てみるが、その前に何が国家にとって最も重要なことであるのかを明確にしておく。

すでに述べたように日本に限らず国家にとって最も重要なこと・最優先にすべきことは他国からの侵略を防ぐことである。
なぜなら他国からの侵略を許せばその国家は滅亡する(=その国の国民の生命と財産が失われる)からである。いくらお金儲けをしてもそれが他国から奪われ命も奪われればそのお金儲けには何の意味もない(単なる無駄な行為になる)。だから北朝鮮も中国も経済発展よりも核武装によって他国からの侵略を阻止することを最優先したのである。ゆえに日本国(に限らずどの国)にとっても最も重要な最優先すべきことは防衛政策になる。
言い換えれば「国家として最低限しなければならないことは他国から侵略を阻止できる防衛政策を選択しそれを実行する」ということである。「日本国内の警官が銃を保持すること」に反対する者は皆無といって差し支えないのであるから、国家が防衛のために武力を肯定することに異論を唱える人は護憲左翼思想のような非現実的な思考の者以外はいないであろう。

日本が採用している防衛政策は(その是非は別として)自主防衛(=核武装)ではなくバンドワゴン(=米国のような軍事強国の絶対的・圧倒的覇権にしがみつくことによってその強国に自国を守ってもらう)であるから、三覇権国の中の中露を抑え込むこと(=米覇権の絶対的優位性を維持すること)は自国の生存のために必須の条件である。
だから当然日本は中国への経済制裁を中国の国力を減退させる機会として利用しようと動かなければならなかったのである(核武装国の中国の経済力を高めることは米国の優位性を低めるので日本の生存を脅かすことに直結する)。

しかし現実にはそのような動きがなかったどころか、驚くべきことに自ら率先してその逆(中国擁護・制裁解除)に動いたのである。
そこにはかつては三覇権国からの侵略に危機意識を持ち、常にそれに対処しようとしてきた日本国の姿勢は微塵もない。 
このことは何を意味するのであろうか?

 

日本は国家として機能していない

 

他国からの侵入を阻止することは国家として最低限度の役割なのだから、その役割を果たそうとしなかった日本は国家として機能していないことを意味するのである。そしてそれは「日本には日本を他国の侵略から守ろうとするエリート(官僚・政治家)が(実質的に)存在しなかった」ということと同義である。

ここで先ほど明らかにした米国の「構造」と日本のそれとを比較し、日本の「構造」を明確にしてみよう。
米国は「国益を最優先にして動く国家という枠組みの中で企業(資本)が活動する」という構造の国である。
一方、日本は「国家として機能していない(=存在しないのと等しい)から、当然国家の枠組みもない。それゆえに企業の要求通りに日本の政治が動いてしまう」という構造の国なのである(国益に反する「企業の圧力」に抗する力であるべき国家が日本には存在しない)。
見た目だけを見れば日本という国家は存在するが、それは形だけに過ぎず「国家としての実体はない」。
だから国益(=国防)に反する「企業の要望のままの対中宥和政策」を日本政府は躊躇なく選択できてしまったのである。
これが日本という国の「構造」なのである。
「対中宥和政策に反対するどころか、逆に率先してそれに賛成した」という日本政府の行動の背後にはこのような構造がある。
 
宥和政策という同じ対中政策を選択した日米だが、その政策決定を生み出した両国の構造はこのように異なる。つまり日本(だけ)は「国家というものが(形だけしかなく)実質的に存在せず、それゆえに企業の要望がそのまま外交政策となる」という国として極めて特殊で異常な構造を抱えているのである。
もし米国が日本と同じ立場に置かれた時に対中宥和政策という(自国の生存を脅かす)外交政策を自ら率先して選択するのだろうかと考えてみれば、日本という国がいかに異常な国であるかが分かるだろう。

この日本独特の構造は「日本のエリートたち(政治家・官僚・言論人)には(他国から自国を守るという意味の)国家意識が欠落している」ということを意味しているが、すでに述べたように経済人が対中宥和の圧力をかけてくるのは当然の行為であるからこの外交政策の失敗を引き起こした要因は「その圧力に屈することなく国益を優先するという当然の責務」を果たそうとしなかった日本のエリートたち(官僚・政治家)にある。
つまり日本のエリート(政治家・官僚・言論人)たちの国家意識(=国防意識)の著しい欠落が日本の国益に反するこの対中外交を積極的に選択させる原因となったのである。その選択には外交主権の喪失(米政府からの圧力)や理想主義思想も影響を与えたと考えられるが、それを割り引いても国防意識が著しく欠落しているということは否定しようがない。
そして彼らの国防意識は過去の日本外交と比較すれば見るも無残な程に著しく劣化している。

北朝鮮が核実験に成功した時に核武装に動こうとした政治家が中川昭一氏一人しかいなかったことも、日本のエリートたちの国防に対する意識が著しく低いことを示してる。同様にこれも日本が国家として最低限度の義務も果たせていないことを意味しており、日本が国家として機能不全に陥っていることの証左である。

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核武装の議論を提案した中川氏は伊藤貫氏の大学時代からの親友であった。

 

国家として機能していない日本の未来

 

このようにエリートが国防のことを真剣に考えていない日本は国家として機能していないのだから日本政府が他国からの侵略を阻止しようと真剣に動くことも決してないし、驚愕すべきことにそれが日本国にとっては極めて自然なことなのである(他国と較べれば極めて異常である)。
国防のことを考えない国なのだから当然他国からの侵略に脆弱(というより無防備)である。
そしてこの無防備な日本の隣には日本を属国化することを国家目標(=国益)にしている中国という強国がいる。
このように極めて危険な状況に日本は置かれているのである。

天安門事件当時にもし日本政府が国益(国防)を重視し中国制裁解除に反対する姿勢を見せたとしても外交主権がない日本の意見に米国が同意したり、それが米政府の方針を変える可能性はなかったであろう。
しかし日本が外交主権を喪失しているという問題よりもより深刻な問題は「日本には日本国の国益を考えて動くエリート(官僚・政治家)が存在しなかった」(=国家として機能していない)ということなのである。
現在もその当時と同様の問題を抱えたままであることは中国の経済成長(と軍拡)によって米国の覇権が揺らいでいるという状況にも関わらずいまだに核武装に動こうとしないというエリート(政治家・官僚・言論人)たちの国防に対する意識の低さを見れば明らかであろう。

国防というエリートとして最低限度の義務すらも果たそうとしない彼らは肩書だけの官僚・政治家・言論人に過ぎない。彼らの正体はエリートとしての資質も能力も欠く、ニセモノの「官僚・政治家・言論人」なのである。

核兵器が存在する現在では、いくらミサイルや戦闘機や軍艦を充実させても核武装しない限り核武装国に対してはそれらの兵器は役に立たない。
米国が日本のために核報復することなどありえないから核の傘を前提にした対米従属(バンドワゴン)も中国などの核武装国の日本への侵略を阻止することには役立たない。
つまり、核武装の議論を一切せず、対米従属を前提として議論をしている日本のエリートたちの国防議論は全てニセモノの議論であり、「議論をしているフリをしている」だけである。我々日本国民は彼らの茶番(嘘)の議論を見せられているだけなのである。

江藤淳が「(独立国)ごっこの世界」と日本を批評したのは1970年のことだが、その時よりも劣化した現在の日本はもはや「(幼稚園児の)ごっこの世界」以下ということになる。現在の日本は「(幼稚園児以下の知性しか持たない)サルたちが我が物顔で跋扈する世界」なのである。

 他国からの侵略を阻止するつもりがない(orそれを考える能力がない)「日本国の方針を決めている無能な日本のエリート」(政治家・官僚・言論人)にこのまま日本国の運営を委ね続ければ、その当然の結果として中国に併合されるという事態を"必ず"招くことになる。そしてこのまま現状を放置し続けるならば、その悪夢は「"実質"GDPで中国が米国の二倍となる」これから5~10年以内に起きるのである。2017年のIMF世界銀行の予測によれば2030年に中国の実質GDPは米国の二倍になるが、コロナによる影響で予測よりも早まる可能性がある。

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この発言は豪州首相との会談中になされた

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2014年にすでに米中の実質GDPは逆転している(実質GDPが経済の実力値)

 

 ※2030年に実質GDPで中国は米国の二倍になるという海外の記事↓

www.visualcapitalist.com

この日本外交の失策の他の原因として、「理想主義思想」がある。
これについてはまた別の記事にする予定である。