YOUTUBEのアカウント停止について
結論だけ先に書くと、過去の動画、つまり、ミアシャイマー教授の発言を取り上げていくという現在のチャンネルに変わる前の、伊藤氏の発言を紹介するという動画(未公開動画も含む)に対して、YOUTUBEのポリシーに反しているという判断が下されたのだろうと推測しています。
下記にこれまでの推移を書きます。
8/4に、「spam, deceptive practices and scams policy(スパム、不正な行為および詐欺に関するポリシー)」 に違反したという理由で、アカウントが停止されたことに気が付きました(※このポリシーは、簡単に言い換えると、誤った情報を流布するということになると思います)。
YOUTUBE STUDIOにはアクセスできない状態になっていたので、当初は具体的に何が問題だったのか把握できませんでした。
その後、このチャンネルの動画を確認していくと(このブログなどからURLが分かったので)、ここ1年くらいの間に公開した動画のうち、ウクライナ戦争を扱ったミアシャイマー教授のインタヴューや講演をまとめた下記の4つの動画だけが「YOUTUBEの規約に違反している」という理由によって削除されていたことが分かりました。
【ミアシャイマー教授】ウクライナ戦争最新分析と予測(2023.9.27)(真の戦死者数,プーチン政権崩壊? 勝敗の行方etc) &多極化(米国衰退)なのに核武装しない日本に警告&第三次世界大戦の危険
衝撃❗アメリカがウクライナを見捨てることを決定(2023.10.12) The US has decided to abandon Ukraine. ミアシャイマー John Mearsheimer (米国はイスラエルを優先)
ミアシャイマーが断言「ウクライナはロシアに絶対に負ける」その理由を論理的に詳細解説(F-16の供与も無意味)(日本の国際政治学者はデタラメばかり言っている)(2023.10/30) #ウクライナ戦争
全世界で3000万人が視聴! 「ウクライナ危機の原因とウクライナの未来」(ウクライナ戦争を予見/核の傘に依存する日本について/NATO東方拡大の本当の理由) ミアシャイマー講演(全訳&ナレーション)
そして、これらの動画はYOUTUBEの規約に違反していないということを説明した文書をYOUTUBEに提出しました。
実際、客観的に見ても、それらの動画が規約に違反していないことは明らかでした。
なぜなら、これらの動画は、ミアシャイマー教授のは発言を忠実に再現することを重視しており、その元動画は現在もYOUTUBEで公開されており、特に4つ目の講演動画は、ミアシャイマー教授の発言をそのまま翻訳したものだからです。
またロシア寄りな発言は一切ありません。ウクライナ戦争の客観的な戦況分析など、あくまで、起きていることをミアシャイマー教授の発言に忠実に客観的に説明した内容です。
※ロシアの侵略行為の正当化の否定を明言したミアシャイマー教授の下記のような発言も引用している動画もありました。
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「これはロシアの行動を正当化するためのものではありません。プーチン氏の行動を正当化しようとしているわけでも、私が望む結果を伝えるつもりでもありません。単に、これらの問題について長年考えてきた経験に基づいて、私が考える今後の展開をお伝えするだけです。」
I am in the business of explanation. I'm not trying to justify the behavior of Putin or tell you what I hope happens. I'm simply going to tell you based on a lot of experience thinking about these issues, what I think is going to happen.
しかし、その後、その時点で非公開にしていた過去の動画(伊藤氏の言説を紹介するという内容)も確認すると、そのほとんどが「YOUTUBEの利用規約に違反しているので削除」という処分になっていることが分かりました。
それらの動画は、ミアシャイマー教授の発言内容を紹介するというこのチャンネルの方針とは異なるし、また、事実とは異なる内容も含まれているので、ほとんど非公開にしていましたが、そのような内容が含まれる動画の少なくとも1つは、チャンネルメンバー限定公開にしていました。
それをメンバー限定公開のままにしていたのは、チャンネルメンバーになればその動画を視聴できるようになれるということを、一つのチャンネルメンバーに加入することの引き換え条件に設定にしていたので、非公開にすることに躊躇したからです。迷いましたが、そこのチャンネルメンバーがいなくなれば動画を非公開にしようと考えていました。
また、もしかしたら、こうした主張が一部に含まれている動画が、まだ公開状態になっていたかもしれません。
記録を取っていなかったので、どの動画が公開状態であったのかは把握できていないのですが、初期の頃の動画は、三島由紀夫の自死を扱った動画と日米合同委員会を扱った動画以外は全て非公開にしていて、その後の時期に公開した核武装関係の動画、陰謀論批判の動画、アメリカの歴史などの動画も非公開にしていました。
基本的に、国際政治関係の動画で、ミアシャイマー教授の発言を反映していない動画のほとんどは非公開にし、少数(1つか、もしかしたら数個)をチャンネルメンバー限定にしていたということです。
おそらく、これらの動画が、偽情報を流布していると見なされた可能性が高いのではないかと推測しています。
何がポリシー違反かというと、「アメリカ政府が経済的利益のために、核武装を含めて日本が防衛力を強化しないように圧力をかけている」という部分です。
この主張の根拠は伊藤氏の発言ですが、伊藤氏は実績のある国際政治の学者ではなく、世間では陰謀論者と認識されている人物なので、伊藤氏がこのように発言していると説明しても、YOUTUBEに納得してもらうことは不可能でしょう。実際、このような考え方は構造的現実主義から考えても誤りです。
この点に関しては、ミアシャイマー教授が核戦略論の講演で説明しているように、例えば、米国が日本の核武装に反対する理由は、経済的利益のためではなく、米国の安全保障確保のためです。
そして、その最も大きな理由(米国が抱く懸念)は、同盟国である日本が核保有国と戦争となった場合、米国が核戦争に巻き込まれる可能性があるからです。
これは米国が他国と核戦争を行わないという意味ではなく、自国の国益とは一致しない場合の核戦争には巻き込まれたくないと考えているということです。日米の利害が必ず一致するとは限らないからです。
このことについての詳細は、下記の動画で確認してください。
またこれらの動画には、構造的現実主義の理論や多極化時代の現在とは、ピントが外れている主張が含まれていました。
例えば、日本の核武装に関して言えば、米国政府は一極時代とは違って、現在は絶対に阻止しなければならないという考え方ではないし(協力すらしてくれる可能性もある)、核の傘が機能していれば、自主核武装する必要はないというのがミアシャイマー教授の考え方です(だから、核の傘が機能しているのかどうかを日本政府は厳格に確認しようとしているのです)。しかし、もし今日本が核武装に動けば、中国から経済制裁が行われることになるでしょう。ゆえに、核の傘が機能しているならば、そこまでのリスクを背負って核武装する必要性はないというのが冷静な戦略的判断になります(色々な変動する条件を考える必要があるので、この判断はかなり複雑です)。更に言えば、ウォルツも言っているように、結局、国防の基盤となるのは、核兵器の保有ではなく、人口も含めた国力(経済力)なので、核武装よりも人口減少問題(移民を推進すべきかどうか)の方が国防上は重要です。「自主核保有=発言権」ではありません。
要するに、数年前に作った動画(ミアシャイマーの発言を中心にするという方針に変わる前の動画)によって、このチャンネルが偽情報を流していると認定されてしまい、そのような文脈の中で、ミアシャイマー教授の発言を扱った動画も、ポリシー違反と見なされてしまった可能性が高いのではないかということです。そのように考えないと、なぜミアシャイマー教授の講演を動画にしたものが規約違反と見なされるのか辻褄が合わないです。
非公開動画も審査の対象になるということはあまり意識できていませんでした。
再び公開するつもりはなかったので、削除しておけばよかったと後悔していますが、製作に労力がかかっていたので、削除するのは忍びなかったというのが正直な気持ちでした。
いずれにせよ、動画の内容やYOUTUBEの考え方に対する私の認識や判断が甘かったというのが、今回の事態に至った原因だと考えています。
このような処分を受けたことにより、今後、YOUTUBEで動画を公開することは不可能になりました。
この6年間近く、時間とお金と労力を動画制作に注ぎ込んできましたが、自分の判断ミスとは言え、それらが全て無に帰したと感じています。
今後どうすべきかまだ決めていませんが、YOUTUBEでの活動は終了になりましたので、これまでこのチャンネルを支援して下さった方々には心より感謝申し上げたいです。
また同時に申し訳なく思っています。
視聴者は少ないと思いますが、これまで作った動画で、内容に問題がないものについては、ニコ生に上げておこうと思っています。
状況が確定してから、
何が起きたのかを説明しようと思います。
国際政治学(ネオリアリズム)に基づいて、ディープステートを解釈すると? ミアシャイマーが言うところのディープステートとは何か?

陰謀論者たちにとってのディープステートとは、資本家がトップに君臨し、その支配下に米国政府を含む世界各国の政府が存在しているというものだ。彼らの妄想の根底には、資本主義が戦争の原因になっていると主張しているマルクス主義がある。
このような考え方がいかに間違ったものであるのかについては、下記の動画で説明した。
そこで、ここでは、陰謀論者たちとの違いを明確にするために、国際政治学(ネオリアリズム)が考えるディープステートとは何かについてあえて(無理があるが)考えてみよう。ディープステートを定義すれば、「国際政治を動かすもの」と言えるだろう。ネオリアリズムでは、国際政治は、無政府状態のアナーキー構造の中で、そのアクターである各国家が自国の安全保障を第一にして、この構造的圧力の中で行動することによって動くと考えている。要するに、現代の(ウォルツ以降の)国際政治学は、「資本家が頂点に立ち、金銭欲や支配欲を満たすために国家を動かしている」と考えている陰謀論とは全く違う別物だということだ。
このことを前提にして考えれば、ネオリアリズムにおけるディープステートとは何かということが見えてくるだろう。つまり、そこには金銭欲で動く資本家は含まれず、安全保障を第一優先にして動く国家だけがアクターということになる。だから、ネオリアリズムにおいて、ディープステートとは、自国の安全保障を確保するために、国家の外交・国防政策を動かしている人たちということになる。具体的に言えば、外交・国防分野の専門家(官僚・シンクタンクの研究者・大学の研究者・政治家・政府)ということになる。ハーバード大学のスティーブンウォルト教授は、米外交に影響を与えているこれらの人々をまとめてblobと名付けた。そして、blobは、誰かがトップにいて、これらの専門家たちをコントロールしているわけではない。しかし、彼らは誰もが似たような考え方(米国が世界一極支配をすべきであるという考え方)持っている。日本で言えば、対米従属という外交方針を日本政府を始めとして、外務省の官僚たちなどの外交の専門家たちが正しいと信じているのと非常によく似ている。このことが理解できれば、彼らを「deep state」とネーミングすることは不適切なことだと分かるだろう。なぜなら、彼らは、秘密の陰謀を企む秘密の組織などではなく、公然と活動し、自分たちの考え方を公表して、それに基づいて、米外交を動かしているからだ。その中には、blobの考え方に同意する閣僚や大統領さえも含まれる。ちなみに、ミアシャイマー教授も時々「deep state」という言葉を使う。しかし、もちろん、このディープステートは陰謀論者たちが定義するディープステートではなく、「blob」のことである。そのことを知ってか知らずか、陰謀論者たちは、「ミアシャイマー教授もディープステートと言っている」などと言って、自分たちの陰謀論を補強するために、ミアシャイマーの発言を歪曲して利用しているのだ。ディープステートについては、この動画で説明した。
近年、「ディープ・ステート」について語ることが流行しているが、私にはそのレッテルはあまりしっくりこない。
確かに外交政策のエリートは存在するが、それはトルコやパキスタンなどの国々で言われているような、あるいはロバート・ラドラムの小説に登場するような陰険で秘密めいた陰謀団ではない。
私の新著で示そうとしているように、米国の外交政策エリートは、その仕事のほとんどを人目につくところで行っている。
演説を行い、会議を開き、タスクフォース報告書、公開書簡、政策概要、論説を書き、議会で証言する。官僚機構の内部では、予算案を作成し、標準業務手順を書き、公式スピーチを起草し、大統領に対して何を省くべきか、他のものを追加すべきかの政策オプションを提示する。
そして、彼らが行うことのほとんどは、驚くほど早く公になる。
米国の外交政策に秘密の陰謀やディープステートは存在しない。
超党派の外交政策エリートが存在するとしても、それはありふれた光景の中にいる。
問題は、以前から指摘しているように、これらのエリートが最近あまり信用されていないことである。
彼らの多くは本物の専門家であり、そのほとんどは(少なくとも私の経験では)本物の愛国者である。
しかし、彼らは、米国が人類を救う救世主であるから、世界中に介入すべきであるという超党派の世界観とそのような世界観に少しでも反対の異を唱えると、罰則を与えられるという文化を持つ外交政策のコミュニティーの中にどっぷりと浸っているのだ。
引用元 Foreign Policy誌 September 7, 2018 Stephen M. Walt
しかし、同時にネオリアリズムでは、国家内はブラックボックスであると考え、国家がどのような性格や思想の人たちによって構成されているのかは基本的に無視する。だから、一極時代はディープステートについて議論することは意味のある事であったが、現在の多極化時代において、その重要性は薄れてきている。なぜなら、多極という構造的圧力によって、一極支配をしたいと思ってもできなくなるからだ。一極支配という思想を持っていることと、実際にそれを行う(行える)こととは別の話ということだ(※八紘一宇という米国人の一極覇権思想と似たような思想を持っている日本人が少なからずいるが、彼らの思想が日本外交に与える影響力は0に等しい)。ただし、急に方向展開はできないから、米国の「ディープステート」(blob)が、「一極支配願望」を捨て去り、多極構造下での外交・国防政策に転換していくまでの過程で、「一極支配願望」に固執するがゆえに彼らが引き起こす失敗の意味を理解するためにディープステートについて考えることも意味があることだろう。多極構造化で一極支配下でのみ可能だった外交を行おうとすれば失敗するのは確実だからだ。また、米国の一極支配という条件の元で可能だったグローバリズムについても同じようなことが言える。ディープステートやグローバリズムを変えようとしなくても、多極構造化ではそれらは力を失わざるをえないということだ。しかし、安全保障という面から見れば、blobの一極思想やグローバリズムが力を持っていた一極構造時代とそれらが力を失う多極構造時代を比較すれば、後者の方が比較にならないくらい世界は危険な状態になる。言い換えれば、核戦争を含めた大国間戦争のリスクが高まるということだ。それゆえに、ミアシャイマー教授も、そのことを考えれば多極化時代よりもグローバリズムが全盛だった一極時代の方が良かったと発言しているのだ。しかし、ディープステートを目の敵にしたり、グローバリズム反対と声高に叫んだりしている人たちは、そのことに無自覚だ。このことについてミアシャイマー教授のこの講演が参考になるだろう。
ミアシャイマーが陰謀論者と勘違いされてしまう原因(伊藤貫氏や及川幸久氏の責任は重大) Why Professor Mearsheimer is mistaken for a conspiracy theorist ?

ミアシャイマー教授が陰謀論を支持していると勘違いしている人たちが少なくない。
まず最初にはっきりさせておくが、当然ながら、ミアシャイマー教授は陰謀論を否定しているし、そのことは客観的にみても明らかだ。
なぜ、そのように言えるのかというと、陰謀論というのは、「証拠のない話(事実ではない妄想・想像・創造)や論理的に矛盾のある話」のことを言うので、そのような話を国際政治学者が公言すれば、学者としての信用は失墜してしまうからだ。
例えば、ミアシャイマー教授は、2020年にジェームズ・マディソン賞を受賞しているが、この賞は国際政治学に貢献した学者に対して、国際政治学会から贈られるものなので、陰謀論を主張している人が、このような賞を受賞できるはずがない。この賞を受賞しているということが、ミアシャイマー教授が陰謀論を支持していないということの1つの客観的な証明になるということだ。
また実際に、ミアシャイマー教授は陰謀論を否定する発言を行っている。
例えば、下記のような発言だ。
それにもかかわらず、なぜミアシャイマー教授が陰謀論を支持していると誤解する人がこれほどまで多いのだろうか?
まず、その原因として考えられるのは、いわゆる陰謀論者がミアシャイマー教授を引き合いに出すからである。彼らは、しばしば「ミアシャイマーも●●と言っている」などと言って、自分たちの陰謀論と同じことをミアシャイマーが主張していると発言している。彼らはそれなりの影響力があるので、それを真に受けた人たちが、ミアシャイマーが陰謀論を支持していると誤解するのだ。
そして、そのような陰謀論者の筆頭に挙げられるのが、伊藤貫氏(Kan Ito)と及川幸久(Yukihisa Oikawa)氏である。
彼らは、ミアシャイマー教授の発言を歪曲したり、または、自分たちの陰謀論に都合が良いように、ミアシャイマー教授の発言の主旨を無視して、発言の一部だけを切り取って、あたかも、自分たちの陰謀論をミアシャイマー教授が支持しているかのような間違った印象を大衆に与えている。その結果、「ミアシャイマーが陰謀論を支持している」と陰謀論者の支持者たちが勘違いするということになるのだ。
そもそも、国際関係論という社会科学の学者であり、構造的現実主義という理論をベースに思考し、安全保障を第一優先にして国家は動いていると考えているミアシャイマー教授と、支配欲や金銭欲で国際政治は動いていると思い込んでいる陰謀論者たちは、国際政治に対する見方(分析方法)が根本的に違う。地動説と天動説が根本的に違うのと同じように、構造的現実主義理論と陰謀論は根本的に違う。
そのことを考えれば、陰謀論(国際政治は、資本家や支配欲によって動かされているetc)が正しいと信じ込んでいるこの二人が、ミアシャイマー教授の発言を引用することが、いかに論理の一貫性を書いた支離滅裂なことであるのかが分かるだろう。実際に伊藤氏は、「古典的リアリズムと構造的現実主義(新現実主義)は同じだ」と発言している。これは「天動説と地動説は同じ」と言っていることに等しい。このような発言をしてしまうということは、伊藤氏が構造的現実主義を理解できないということを意味している。そして、このことは物事を論理的に思考する能力に欠陥があることを意味するから、そのような人たちが言論人や知識人を名乗る資格はない。この二人は、天動説と地動説は両方とも正しい、地動説と天動説は同じだと主張している人と同じである。その点、著名な陰謀論者である馬渕睦夫氏は、この二人とは異なり思考に一貫性がある(その陰謀論がいかに荒唐無稽なものであったとしても)。なぜなら、馬渕氏は、「国際政治学者は嘘を付いている。」と発言し、(現代の)国際政治学と陰謀論は根本的に考え方が違うことをはっきり(正しく)認識し、認めているからだ。馬渕氏の言う通り、資本家が国際政治を牛耳っているとか、支配欲で国際政治は動いているという陰謀論と、ミアシャイマー教授が分析の土台にしている構造的現実主義理論は、陰謀論者から見れば、「国際政治学者は嘘を付いている」と思うくらい根本的に違うものなのだ。伊藤氏や及川氏とは異なり、馬渕氏はおそらくウォルツの国際政治の理論を読み、その内容を理解しているのだろう(※ただし、ウォルツの理論を理解してもなお、陰謀論が正しいと思ってしまうことについては論理的思考力に問題があると言える)。その二つの違いを認識するという点に関しては、馬渕氏は極めて正しい。だから、全く違う考え方を一緒くたにしてしまっている伊藤氏と及川氏に比べれば、馬渕氏には思考に一貫性があると言えるのだ。
しかし、ミアシャイマーを陰謀論者だと誤解している人たちは、陰謀論を信じている人だけに留まらない。陰謀論をバカにしているような人たちの中にも、ミアシャイマーと陰謀論者の区別ができない人が少なくない。区別ができないのは、国際政治学についての知識が不足しており、ミアシャイマーが理論の柱にしている構造的現実主義を理解できていない、つまり、ウォルツ以降の国際政治学が理解できていないということだ。もし理解できているならば、考え方が根本的に異なる両者を一緒くたにするということはあり得ない。そして彼らのブレーン的存在は、国際政治学とは畑違いの分野の大学教授などの知識人である。
例えば、そうした知識人として挙げられるのは、言語学の分野で著名な学者であるチョムスキーだ。チョムスキーは国際関係論の専門家ではない。また、エマニュエル・トッドもそれに該当する。
大学教授の肩書があっても、その専門が国際関係論でないならば、その人の国際政治に関する見解(ミアシャイマーに対する批判)は、素人レベルであるので、その発言に信憑性(信頼性)はない。国際関係論の領域では素人に過ぎない人物の主張を根拠にして、ミアシャイマーを批判するという行為は極めて滑稽だが、そのおかしさを彼ら自身は全く自覚できていない。大学教授という肩書さえあれば、その人の言うことは全て正しいと思い込んでいるのだろう。もしミアシャイマーを批判したいのであれば、ジョセフ・ナイなどの国際関係論の学者を引用すべきだ。
更に、伊藤氏に関して言えば、別の問題もある。伊藤氏は常日頃、形而上の価値の重要性を訴えているが、ミアシャイマー教授の発言を捻じ曲げ、陰謀論者に仕立て上げること、そして、国際政治学に関して無知な大衆をミアシャイマー教授のネームバリューを使って陰謀論が正しいと錯覚させて、妄想へと誘導することは、道徳・形而上の価値に反する行為であり、これは伊藤氏の高尚な主張と矛盾する。伊藤氏は、自身が不道徳な行為を行っていることに関して何の罪悪感も、恥ずかしさも感じないのだろうか?その点、馬渕睦夫氏は評価できる。伊藤氏にはぜひ、「国際政治学者は嘘を付いている」と断言している馬渕氏の陰謀論者としての首尾一貫した姿勢を見習ってもらいたいものだ。
素人なのだから、目くじらを立てずに、陰謀論を商売にしている芸人として生暖かく見守ればいいではないかという反論もあるかもしれない。しかし、伊藤氏が先日の選挙で大躍進を遂げた参政党と関係があるということを考えると、そのような悠長なことを言う訳にはいかない。参政党が伊藤氏のアドバイスに従って日本の外交政策に影響を与えれば、日本が外交で大失敗することになるからだ。それは中国の覇権争いで日本が敗北することに繋がるだろう。
There are quite a few people who mistakenly believe that Professor Mearsheimer supports conspiracy theories.
First and foremost, it should be made clear that Professor Mearsheimer, of course, denies conspiracy theories, and this is objectively evident.
Why can we say that? Because conspiracy theories refer to “unfounded claims (fantasy, imagination, or fabrication not based on facts),” and if an international political scientist were to publicly endorse such claims, it would undermine their academic credibility.
For example, Professor Mearsheimer received the James Madison Award in 2020, which is awarded by the International Political Science Association to scholars who have contributed to international politics. Someone who advocates conspiracy theories could never receive such an award. The fact that he received this award is objective proof that Professor Mearsheimer does not support conspiracy theories.
Additionally, Professor Mearsheimer has made statements denying conspiracy theories.
For example, the following statement:
Nevertheless, why are there so many people who misunderstand Professor Mearsheimer as supporting conspiracy theories?
First, one possible reason is that so-called conspiracy theorists cite Professor Mearsheimer. They often say things like, “Mearsheimer also says XX,” implying that Mearsheimer advocates the same conspiracy theories as they do. Since these conspiracy theorists have a certain degree of influence, people who take their claims at face value end up misunderstanding that Professor Mearsheimer supports conspiracy theories.
Among these conspiracy theorists, the most prominent are Kan Ito and Yukihisa Oikawa.
They distort Professor Mearsheimer's statements or ignore the main points of his remarks, selectively quoting only parts of his statements to create the false impression that he supports their conspiracy theories. As a result, supporters of conspiracy theories mistakenly believe that Mearsheimer endorses such theories.
To begin with, Professor Mearsheimer, as a scholar of international relations—a social science—and someone who bases his thinking on structural realism, believes that states act with security as their top priority. In contrast, conspiracy theorists, who believe that international politics is driven by desires for domination and wealth, have fundamentally different views on international politics.
Considering this, it becomes clear how illogical and incoherent it is for these two individuals, who believe in conspiracy theories (such as international politics being driven by capitalists and the desire for power), to quote Professor Mearsheimer's remarks. In fact, Mr. Ito has stated that “classical realism and structural realism (new realism) are the same.” This indicates that Mr. Ito does not understand structural realism. And this means that they lack the ability to think logically, so they have no right to call themselves public intellectuals or scholars. These two are like people who claim that both the geocentric theory and the heliocentric theory are correct, or that the heliocentric theory and the geocentric theory are the same. In contrast, the renowned conspiracy theorist Mutsuo Mabuchi, unlike these two, has consistency in his thinking (regardless of how absurd his conspiracy theories may be). This is because Mabuchi has stated, “International political scientists are lying,” clearly (and correctly) recognizing and acknowledging that modern international political science and conspiracy theories fundamentally differ in their approach. As Mabuchi points out, conspiracy theories that claim capitalists control international politics or that it is driven by the desire for domination are fundamentally different from the structural realism theory that Professor Mearsheimer uses as the foundation for his analysis. From the perspective of conspiracy theorists, these two approaches are so fundamentally different that they might think, “International relations scholars are lying.” In recognizing this difference, Mabuchi is entirely correct. Therefore, compared to Mr. Ito and Mr. Oikawa, who lump together completely different ways of thinking, Mr. Mabuchi can be said to have consistency in his thinking.
However, those who misunderstand Mearsheimer as a conspiracy theorist are not limited to those who believe in conspiracy theories. Even among those who ridicule conspiracy theories, there are many who cannot distinguish between Mearsheimer and conspiracy theorists. The reason they cannot distinguish between the two is that they lack knowledge of international politics and do not understand structural realism, which is the cornerstone of Mearsheimer's theory, meaning they do not understand international politics since Waltz. If they did understand, they would not lump together two people with fundamentally different ways of thinking. And their intellectuals are university professors and other intellectuals from fields unrelated to international politics.
For example, one such intellectual is Noam Chomsky, a renowned scholar in the field of linguistics. Chomsky is not an expert in international relations theory. Emmanuel Todd also falls into this category.
Even if someone holds the title of university professor, if their specialty is not international relations, their views on international politics (criticism of Mearsheimer) are at an amateur level, and therefore their statements lack credibility (reliability). Using the claims of someone who is merely an amateur in the field of international relations as a basis for criticizing Mearsheimer is extremely ridiculous, but they themselves are completely unaware of how absurd it is. They probably believe that anything a university professor says must be correct. If they want to criticize Mearsheimer, they should cite scholars of international relations such as Joseph Nye.
Furthermore, there is another issue regarding Mr. Ito. Mr. Ito constantly emphasizes the importance of metaphysical values, but distorting Professor Mearsheimer's statements, portraying him as a conspiracy theorist, and using Professor Mearsheimer's reputation to mislead the ignorant masses into believing that conspiracy theories are correct and leading them into delusion is an act that goes against moral and metaphysical values, and this contradicts Mr. Ito's lofty claims. Does Mr. Ito feel no guilt or shame about engaging in such immoral behavior? In that regard, Mr. Mabuchi Mutsuo is commendable. I hope Mr. Ito will learn from Mr. Mabuchi's consistent stance as a conspiracy theorist, who boldly declares that “international political scientists are lying.”
最も評判の悪い動画(日本に原爆を落とした理由 ミアシャイマー)。伊藤貫氏の正体は、リアリストの仮面を被ったセンチメンタルなリベラリスト。

この動画を視聴して、チャンネル登録を外した人が13人いるが、その原因を考えてみよう。
通常よりもかなり多くのコメントが寄せられたが、そのほとんどが、この動画への批判であった。批判内容は、「原爆投下は人体実験の要素があったのに、そのことを否定するのか!」というものと、伊藤貫氏が批判されたことに対する怒りの感情を表明したものだった。
まず前者については、的外れな批判である。なぜなら、ミアシャイマー教授が説明しようとしていることは、「原爆投下の主目的」であって、それ以外の目的について説明しようとしていないからである(※それらを説明する必要性もない)。例えれば、交通事故が起きた時の原因を説明する時に、その主原因が飲酒運転であり、飲酒をしていなければ事故が起きていなかったと考えられる場合、その日の天候や車種等々に言及しないのと同じである。逆に言えば、原爆投下の主目的(戦争を早期に終了させるため ※当時の米政府は、原爆投下によって日本が降伏する可能性があると考えていた)となるものが他にあるならば、ミアシャイマー教授はそのことにも言及しただろう。その主目的が人体実験であるのにも関わらず、ミアシャイマーがそれを無視して、戦争の早期終結のために原爆は投下されたと主張することはあり得ないということが分からないのだろうか?(そのようなことをすれば、嘘を付いているということになり、学者としての信頼は失墜する)。実際、学術的に原爆投下の目的として考えられているのは、「戦争の早期終結>ソ連への示威」であって、「人体実験のため」というものはそこには含まれていない(※この動画を批判している人たちは、この現実を全く理解できていない)。だから、ミアシャイマー教授は「人体実験のために原爆を投下した」と説明することはないのである。「原爆投下は人体実験が目的だった。なぜそのことに触れないのか!」と怒っている人たちは、このようなことさえも理解できないのだ。もし、国際関係論から見た場合の原爆投下の理由ではなくて、人種差別について何か研究している人であるなら、原爆投下の目的の中に人体実験が含まれていたのかについて追及すればよいと思うが、それは、「原爆投下の目的」を説明するという国際政治学における話の中では必要ないことなのだ。これらのことを考えると、「原爆投下は人体実験の要素があったのに、そのことを否定するのか!」と怒っている人たちの思考能力がいかに低いのかが分かるだろう。知的障害があるのではないかと疑ってもいいレベルだ。また彼らの反応や伊藤氏の「原爆は実体実験のため」という主張には、全体の一部だけを殊更強調して、あたかもそれが物事の主原因であるかのように思い込むという陰謀論者特有(思考力の欠落した人間特有のと言い換えてもいい)の思考パターンがある。彼らは物事の全体を俯瞰して見る能力が著しく欠落している。
また、彼らが伊藤貫氏が批判されたことそのものに怒っていると言えるのは、彼らの多くは論理的に反論することなく、伊藤氏が批判されたことに怒りを表明しているだけだからだ(この動画の主張に論駁することができない)。伊藤氏を信奉する彼らにとって伊藤氏の発言が論理的で客観的であるかどうかはどうでもいいことなのだ。彼らは伊藤氏の発言をそのまま鵜呑みにして、賞賛するだけである。つまり、彼らは何も考えていないのだ。だから、批判内容がどのようなものであっても、彼らは伊藤氏が批判されただけで気に入らないということになるのだ。この動画を見れば、伊藤氏の発言の客観性のなさが理解できるはずだが、伊藤氏を信奉する人たちのその信仰心が揺らぐことはない。そもそも、国際関係論の専門家ではない人物の国際政治に関する発言(自論)を何の疑いもなく真に受けているということ自体が、常軌を逸しているのだが、彼らにはそのおかしさを自覚できる能力はないらしい。
また両者の根底には、「日本は原爆投下の被害者だ」という被害者意識がある。そのような被害者意識が生まれるのは、無政府状態の国際社会では、安全保障のために国家は冷酷な(非道徳的な)振舞いをする(せざるをえない)という基本的な理解に対する乏しさだろう(※このことは無政府状態ということの意味が理解できていないことを意味する)。無政府状態であることを考えれば、米国が戦争を早期終結させようとして、「非人道的」な原爆投下を行ったことも、日本がアジア地域に無謀な侵略戦争を行ったことも理解できる。無政府状態の中では人道上・道徳的に、問題があるからといって、安全保障を後回しにすることは不可能だからだ。
更に言えば、彼らも含めて日本人の多くが、小学生の時から、「日本は原爆の被害者(原爆投下は必要なかった)」という説明を(リベラル系の)教師から受けていることも、彼らが「原爆投下は戦争の早期終結のため」という説明に反発する理由だろう。もちろん、そのようなことを生徒たちに話している教師たちは、国際社会は無政府状態という概念を理解できておらず、リベラリズムの枠組みで国際社会を見てしまっている。別の言い方をすれば、頭の中がお花畑(人類は理性的に行動できるようになっていくという進歩主義)ということだ。そして、これは伊藤氏の主張と同じなのだが、リベラル系の人たちの主張と自称リアリストの伊藤氏の国際政治に関する見方が一致するのは単なる偶然ではない。一致するのは、伊藤氏は、実際にはリアリストではなく、リベラリストだからだ。当時の米政府が戦争の早期終結のために(+ソ連への示威のために)原爆投下が必要であると判断したことは、無政府状態下の国際システムにおいて、当然、導かれる非常にリアリズム的な結論であるのだが、伊藤氏の「原爆投下は必要なかった」(=原爆投下は人種差別に基づいた人体実験のため)という主張にはリアリズムを理解できないリベラル的思考が滲み出ている。伊藤氏は、「降伏の準備をしていれば」、交戦国がそれを信じてくれると考えているのだ(なんと甘い考え方だろう)。それは話し合いをすれば戦争は起こらないと主張しているリベラルの人たちと基本的な考え方は同じである。要するに、伊藤氏は、国際政治の構造がアナーキーであるということの意味が理解できていないのだ。国際政治のアナーキー構造を理解しているならば、伊藤氏のような甘い考え方が出てくるはずがない。「日本は降伏の準備をしていたのだから原爆投下の必要はなかった(だから、原爆投下の理由は人体実験のためだ)」という伊藤氏の非リアリスト的(話せば分かるじゃないかというリベラル的な)主張と、「日本は実質的に敗北していたが、戦争を止めると言わなかった(から米国は原爆を投下した)」というミアシャイマーの非常にリアリスティックな主張を較べれば、伊藤氏がいかにリベラルチック(センチメンタル)な世界観を持つ人物なのかがよく分かるだろう。伊藤氏は、「戦争を止める(降伏する)」と言わなかった日本が米国から見ればどのように映っていたのかすらも理解できないらしい(更に言えば、降伏すると「口で」言っただけでは米国は原爆を投下しただろう)。正真正銘のリアリストであるミアシャイマーは、伊藤氏のような甘えたことは言わない。伊藤氏の正体はリアリストの仮面を被った、センチメンタルなリベラリスト(※リアリズムに無理解であるという意味)である。伊藤氏(と多くの日本人)の「原爆投下は必要なかった(だから、原爆投下の理由は人体実験)」という主張は、リベラリストが共通して持つ、国際政治の残酷性に対する無理解ぶり(話し合いで国家間対立は解決できるというお花畑ぶり)と、ウォルツ以降の国際政治学に対する無理解ぶり(国際政治のアナーキー性を構造的に理解できない貧相な知識レベル)を抱えているということの動かしがたい証拠なのだ。そして、この二つの無理解が、氏の陰謀論(資本家が米外交を支配しているという陰謀論)や米中覇権争いで戦争を嫌がる米国の資本家の要請によって米国は覇権を中国に明け渡すという予測(※これはまさに、伊藤氏がバカにしている経済相互依存論と同じ)というハチャメチャな国際政治分析を生み出しているのである。そのような人物が「ミアシャイマーもそう言っている」などと言っているのだから開いた口が塞がらない。言っていることがもう滅茶苦茶である。そして、その信奉者たちが、そのような伊藤氏をリアリストであると勘違いし、その素人分析を称賛するという滑稽な光景が繰り広げられているのだ。
John Mearsheimer on “An Offensive Realist’s View of China and Crimean Crisis” ミアシャイマー教授の日本講演の全訳
2014年に行われた日本での講演(John Mearsheimer on “An Offensive Realist’s View of China and Crimean Crisis”)の全訳です。
これをベースにして、論文から引用や関連写真などを加えて動画にしたものがこちらです。

ミアシャイマーの核戦略論(「核の傘は嘘」を論破! 米中戦争は核戦争になる!?) 講演(「大国と核戦力の優位性の追求」)の全訳&ナレーション
新しく公開した動画です。
元動画は、16万回視聴くらいであまり伸びていないのですが、その理由は内容が難しめだからではないでしょうか?
核戦略論について知識がない人が見ても理解できないと思ったので、先制核使用の部分に、論文を参照にして説明を追加しました。
「核の傘は嘘」と言っている人たちがいますが、現実を見れば、「核の傘」を前提にして国際政治は動いています。
現実を説明できるのが正しい理論です。
「核の傘は嘘」の話の根拠となっているのは「核革命論」と呼ばれる理論ですが、ミアシャイマーはこの理論は間違いであることをこの講演の中で説明しています。
だから、「核の傘は嘘」という主張は、現実の国際政治とも矛盾しているし、論理性にも欠陥があるということです。
と言いながら、伊藤貫氏のことを信奉していた時は、この核革命論が正しいと思い込んでいたので、世界的に評価されている国際政治学者の発言を直接聞くことが間違いを犯さないためには必要なことだと思います。
「THE GREAT DELUSION WITH PROFESSOR JOHN MEARSHEIMER」(ミアシャイマーの講演の全訳&ナレーション付き動画) リベラル覇権主義(=NWO)について詳細解説

2018年にテキサスA&M大学で行われたミアシャイマー教授の講演の全訳です。
この講演を日本語のナレーションと関連写真によって、忠実に再現した動画はこちら
↓
YOUTUBEの規制に抵触する可能性がある発言は表現を変更しています。
この講演の内容は、アメリカの外交政策であるリベラル覇権主義を分析、批判するというものです。
それは同時に、「何が米外交を動かしているのか?」や「NWO(ニューワールドオーダー)の実態」を説明する内容にもなっているので、資本家やネオコンが米外交を動かしていると主張している陰謀論者に対する論駁にもなっています。
そして、この講演の内容は、2018年に出版された「The Great Delusion」に沿ったものになっています。
一部を意訳しています。また、説明が足りないと思った部分(①リベラリズムとは何か?)については、他の講演での発言をつけ加えています。
●日本語訳一覧
チャンネル名から伊藤貫氏の名前を外した理由
チャンネル名から伊藤氏の名前を外すことになりました。
外した理由は二つあります。
一つ目の理由は、伊藤氏の国際政治学のパラダイム(学派)と、このチャンネルが正しいと考えているパラダイムが違うからです。
このチャンネルは国際政治学のネオリアリズム(攻撃的リアリズム・防御的リアリズム・新古典的リアリズム)という学派が正しいと考えていますが(※この3つのどれが正しいという決めつけはしていません)、伊藤氏のパラダイムは古典的リアリズムです。
そして、このパラダイムが違うと、国際政治に対する分析の結果も、未来予測も違ったものになります。
この二つの違いを簡単に説明すると、ネオリアリズムは、基本的に国際政治の構造によって、国際政治は左右されると考えるのですが、古典的リアリズムは、構造ではなく、その国の性質(例えば、支配欲が強い など)に左右されると考えます。
例えて言えば、地動説と天動説のように、ネオリアリズムと古典的リアリズムは、根本的に違います。
また、国際政治学界での一般的な評価としては、1979年にケネスウォルツが「国際政治の理論」という本を発表し、構造的現実主義の理論(ネオリアリズム)を発表してから、初めて国際政治学は社会科学の域に入ったとされています。
またネオリアリズム以外の学派(リベラル制度主義、コンストラクティビズム)も、ウォルツのネオリアリズムをたたき台にして理論構築しており、古典的リアリズムは学術的には過去の遺物(信憑性のない理論)として葬り去られたという形になっています。
このような経緯を踏まえて考えても、このチャンネルは、ネオリアリズムが正しいと考えています。
具体的な学者としては、ケネスウォルツ、ミアシャイマー、スティーブンウォルト、クリストファーレインなどです。
伊藤氏は、ウォルツなどのネオリアリストの名前を出すことがよくありますが、「支配欲で国際政治は動く」と度々発言しています。
また、それ以外にも、伊藤氏は、過去、「雑誌 表現者」において、「ネオリアリズムと古典的リアリズムを区別していない」と発言していたり、ミアシャイマーを古典派のモーゲンソーと同じ分類に入れるという内容の論考を表現者で発表しています。
これらから考えると、伊藤氏のパラダイムはネオリアリズムではく、古典的リアリズムだというのが客観的な評価です。
伊藤氏のパラダイムは、新古典的現実主義であるという反論があるかもしれませんが、新古典的リアリズムは、安全保障をベースに国家は動くと考えているので、支配欲で国家は動くという伊藤氏とは根本的に違います。
ネオリアリズムと古典派の未来予測の違いについて言えば、例えば、伊藤氏は、「アメリカは中国と戦争まではせずに、あっさり東アジアを見捨てる(投資家が反対するからというのも理由としてあげられている)」と度々発言していますが、ミアシャイマーは、「東アジアの覇権をめぐって、アメリカは中国との戦争も辞さない」という考えなので、まったく予測が違うということになります。
このように予測が異なるのは、古典派は支配欲で国家は動くと考えていますが、ネオリアリズムでは、安全保障を第一にして国家は動くと考えているからです。
二つ目の理由は、伊藤氏が「ディープステート」、「資本家が米外交を支配している」、「ウクライナ戦争はアメリカが企画して、意図的に起こした」など、陰謀論者的発言をしばしば行っているからです。
伊藤氏のこれらの発言をネオリアリズムの学者たちは支持していません。
たとえば、ウォルト教授は、Foreign Policy誌に「DSというようなもの存在しない」という内容の論文を出していたり、ミアシャイマー教授も、「外交を動かしているのは、資本家ではなく、外交エリートたち」という発言をしていて、伊藤氏の言うような陰謀論は否定しています。
このような両者の考え方の違いは、一つ目の理由で説明した両者の根本的な考え方の違い(国家は支配欲で動くのか、安全保障で動くのか)から生まれます。
先ほど、古典派の理論は学術的に見て、非科学的と評価されていると説明しましたが、陰謀論も古典派と同じような思考に基づいたものなので、陰謀論も非科学的という評価になります。
この点についての詳細はケネスウォルツの国際政治の理論を読んでいただきたいのですが、陰謀論も古典的リアリズムも、理論が帰納的であるということです。国際政治はシステムからの影響を無視できない以上、理論は帰納的ではなく、演繹的・体系的なものでなければならないということです。
いわゆる陰謀論は、古典派が全盛だった時代に流行した過去の遺物です。
悪い国が戦争を始めるなどと考える古典派は陰謀論と非常に相性がいいです。
それ以外に、核戦略論についても、伊藤氏は80年代の知識を根拠にしていると発言されていますが、核戦略論は、ここ数十年で大きく変化しており、80年代の知識では正確な分析ができなくなっています。
例えば、核があるから米中は戦争できないという伊藤氏の主張は、現在の核戦略論では否定されています。なぜなら、戦術核において、この数十年で大きな技術革新があり、核兵器の持つ意味合いが80年代とは変化しているからです。
また、伊藤氏は核の傘は嘘と発言されていますが、ミアシャイマーも含め、他のネオリアリストの学者の中で、核の傘を否定している人は一人もいません。
つまり、「核の傘は嘘ではない」ということです。
このチャンネルでは、ある時点まで、「伊藤氏はネオリアリズムに基づいて、国際政治分析をしている」と思っていたのですが、そうではないということに気が付いて、伊藤氏からの伝聞ではなく、自ら国際政治学について一から学び直す必要があると考えました。
そして、このチャンネルでは、去年の終盤から半年程度動画制作を休止して、チャンネルページの投稿欄を利用して、ウォルツの「国際政治の理論」を毎日引用しながら、チャンネルメンバーと一緒に理解していくという作業をしました。
この本は、現在の国際政治学の基本書に位置付けられていて、必読文献になっています。
まだ投稿はそのまま残しているので、チャンネルメンバーになれば誰でも閲覧できます。
このチャンネルで過去に作った動画の中には、ネオリアリズムから見ると正しくない内容のものがあります。
そのために、非公開にした動画もありますが、一部が間違っている動画ついては、今後、カットなどの作業が必要だと考えています。
ウォルツの国際政治の理論の日本語版が出たのが、2010年で、まだ10年余しか経過していません。
このことは、ネオリアリズムが日本ではまだ十分に理解されていないということを意味します。
日本で、古典的リアリズムや陰謀論のような非科学的にものを信じている人がまだまだたくさんいるのは、(科学的な)ネオリアリズムについてまだ理解が不十分であることも原因の一つではないかと思います。
また日本の国際政治学者の大多数は、コンストラクティビズムか、リベラル制度主義に属する人たちなのですが、ウクライナ戦争や中国の台頭について、これらの学派は、予測に失敗したので、「国際政治学は信用できない」という間違ったイメージが広がってしまっていることも、陰謀論が流行してしまう原因の一つではないかと思っています。
ネオリアリズムは、ウクライナ戦争の発生リスクや中国の台頭について正確に予測していました。そして、陰謀論と違い、学術的に検証されているものなので、信憑性が確保されています。
これをお読みの方のほとんどは、伊藤氏の国際政治分析は正しいと考えていらっしゃると思いますが、一度、ウォルツの「国際政治の理論」を読まれてみて、伊藤氏の考え方(古典的リアリズム)との違いを確認されてみたらいかがでしょうか
私がここでいくら説明しても、納得していただくのは難しいと思うからです。
私も、伊藤氏が絶対に正しいと考えていた時は、伊藤氏に対する批判は全て間違いだと思っていたので、その時の自分のことを思い出すと、皆さんが、これを読んで納得するとは思えません。
今から思うと、一種の洗脳状態であったと思います。
私が間違えてしまったのは、「伊藤氏は、ウォルツやミアシャイマーの考え方を正確に伝えてくれているから、彼らの本は読む必要がない」と思い込んでいたことです。
この本を読んでみて、伊藤氏の国際政治分析はネオリアリズムではなく、古典的リアリズムに基づいたものであることが分かりました。
だから、ご自身で国際政治の理論を最後まで読まれて、自ら納得するというプロセスが必要だと思います。
この本は、今の国際政治学の枠組み(土台)を説明しているので、この本の内容を理解できていないと、他の国際政治の理論(この本を土台にして、防御的リアリズム・攻撃的リアリズム・新古典的リアリズムが生まれている)は理解できないです。
ネオリアリズムはリベラル制度主義などと違って、理想や願望を理論に組み込んでいないので、真実性を感じられると思います。
そして、ネオリアリズムを理解した上で、陰謀論と比較すれば、陰謀論がどれほど非科学的な話なのかが分かるでしょう。
ウォルツもこの本の中で、陰謀論を批判しています。
陰謀論を信じている人は、雷が神の仕業だと考えていた原始時代の人と同じです。
原始人は、科学的知識がないから、雷を神の仕業だとしか思えませんでした。
ネオリアリズムを学ばれれば、今まで陰謀論だと思っていたことが、思い込みに過ぎなかったことが分かるでしょう。
今後、国際政治分析については、ミアシャイマーらのネオリアリストの学者の見解を論拠にして動画制作をしていく予定です。
ネオリアリズムの学者の間でも(対中政策などで)論争もあり、ミアシャイマーに対する批判もあるので、それも紹介していく予定です。
●ジョン・ミアシャイマー教授の経歴 1982年よりシカゴ大学で政治学を教える。 1970年に陸軍士官学校を卒業後、米空軍士官として5年間勤務。その後、1975年にコーネル大学大学院で政治学を専攻。1980年に博士号を取得。 1979年から1980年までブルッキングス研究所の研究員、1980年から1982年までハーバード大学国際問題センターの博士研究員。1998年から1999年にかけては、ニューヨークの外交問題評議会でホイットニー・H・シェパードソン研究員を務めた。
今後ともよろしくお願いいたします。
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