「ミアシャイマー」の思想・ネオリアリズムの国際政治学(YouTube)のブログ

リアリスト学派の国際政治学による日本の外交・国防、国際情勢の分析

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伊藤貫氏を盲信しないこと(=自分の頭で考えること)も重要である。

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先日、伊藤貫氏の動画がチャンネル桜で放送されたが、示唆に富むものであった。伊藤氏の言説の優れた点の一つは、他の日本人の論客が指摘しないことを指摘してくれるところであろう。

しかし、伊藤氏の(動画での)発言を聞くときに、それらが、どういう意味を持つのかということを考える必要もある(※それは、伊藤氏の発言の信ぴょう性を疑うという意味ではない)。今回の記事は、このことについてである。

 
まず、最初は、伊藤氏の動画での発言の真意を正確に理解することの重要性である。

書籍と違い、動画では時間的な制約やアドリブ的要素があるので、伊藤氏が言いたいこと全てを正確に伝えきることは難しい。だから、伊藤氏の発言の意図を正確に理解するためには、伊藤氏の著作を読み理解していることも必要である。例えば、今回に限らず伊藤氏の動画への批判コメントでよくあるのが「伊藤氏は親中である」という誤解である。伊藤氏の著作を読めば、伊藤氏は親中でないことは明らかである。そのような明らかに間違った印象は伊藤氏の動画での発言の意図を正確にくみ取ることを阻害するだろう。なお、伊藤氏が動画であからさまな中国批判を控えるのには理由がある。それは日本の国益のためだが、これについては長くなるのでまた別の記事にするつもりである。

例えば、先日の放送で、伊藤氏は、「共和党のポンペオは反中思想を持つ優れた人材である(※ネオコンであるとも指摘した)」旨の発言をしたが、ネオコンの思想とは簡単に言えば「アメリカだけが強大な軍事力を持ち、民主主義などのアメリカの価値観を世界に広げる」というアメリカによる世界一極化戦略のベースにもなる思想である。それを、日本の立場から見れば「アメリカは日本の核武装を許さず、日本を植民地支配し続ける」ということになる。このような基礎的な知識のない人が伊藤氏のポンペオを評価する発言を聞いたら「ポンペオが大統領になることは、日本にとって良いことだ」と誤解する可能性がある。確かに、反中思想の米大統領であれば、中国を抑止することに力を注ぐはずだから、それは、日本が核武装するための時間稼ぎに役立ち日本の利益になる。

しかし、それは、ポンペオが大統領になれば、すべてがうまくいくという話ではない。伊藤氏がポンペオを評価しながらも、同時に、以前から繰り返し警告している「2030年に日本が滅亡の危機になる」という指摘をしていたことに留意すべきである。

さらに、日本の核武装の実現性を考えた場合、頭の良い人物が大統領になることは、トランプのような頭の悪い大統領の場合であれば可能になる、欺き、手玉にとることが難しくなることを意味する。

また、「2030年が日本存亡の危機」という情報だけでは、2030年に核武装に取り掛かれば間に合うと誤解する人が出てくる。「核武装には他国から技術支援を受けても6~7年かかる」という情報も併せて必要であるが、後者は今回の動画では触れられなかった(伊藤氏の著作や伊藤氏が執筆した雑誌の原稿には繰り返し強調されていることである)。

それ以外では、大統領選挙での不正について、伊藤氏は「不正があった」とは発言しなかったが、「不正があったとしても、その捜査が行われていないから、真相は闇の中である」旨の発言は行った。このことだけを聞けば、今回の大統領選挙は「実際には共和党が勝っていたと伊藤氏は考えている」という誤解を与えるだろう。

しかし、伊藤氏は、繰り返し「人種構成比の大変化、つまり、白人がマイノリティーになる(アメリカは近い将来、ラテンアメリカのようになる)ことは不可避であること」、そして、「マイノリティーの多くは民主党に投票する」という発言もしている。つまり、投票者の数で、過半数に近づいている非白人とリベラル思想を持つ白人の数を合わせれば、今回の大統領選挙で民主党過半数を取る可能性は、論理的に考えて十分あり得るということになる。

だから、伊藤氏は、この発言によって、共和党が選挙に実は勝っていた可能性があるということを言いたかったのではなく、エスタブリッシュメント層が大統領選挙をもコントロールしようとするほど腐敗していることを言いたかったのだろう。

しかし、伊藤氏の著作物を読んでいない人であれば、左の思想の人たちは、伊藤氏のことを「証拠のない陰謀論を振りかざすネトウヨ論客」と評価してしまう恐れがあるし、逆に、右の人たちは「伊藤氏も、実は共和党が勝っていたと言っている」と錯覚してしまう恐れがあるだろう。

民主党が今回の選挙で過半数をとった可能性がありえることは、この記事で書いた。

uipkmwvubg9azym.hateblo.jp

 


次に、トランプについて、伊藤氏は頭が悪いと低評価したと同時に、(側近にそそのかされたことによる)反中姿勢については、高評価もしているが、このことについて感じた問題点を指摘したい。

日本の核武装について考えれば、すでに記事にしたが、実質GDPで中国が米国の二倍になること(=在日米軍は撤退せざるをえない)をできるだけ遅らせ、日本が核武装するための時間を稼ぐことが日本の存亡にとって極めて重要であるが、トランプはコロナ失策などによりその時期を遅らせるどころかむしろ早めた可能性がある。この事実は日本の存亡にとって極めて深刻である。伊藤氏は、トランプを評価するだけでなく、このことに対して、警告すべきではなかっただろうか?

uipkmwvubg9azym.hateblo.jp

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番組内で伊藤氏はその時期を2030年としていたが、その見立ては甘い可能性があるのだ。

このことは、伊藤氏の著作だけでなく、自ら他の(新しい)情報も取り入れることの重要性や、伊藤氏が依然から警告していた「実質GDPが二倍になる2030年に日本は滅亡する」という極めて重要な情報について、それをそのまま盲信せずに(別のデータも自分で確認して)、自分の頭で考え直すことも必要であることを意味しているだろう。

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伊藤氏の発言をベースに思考することと、それを盲信することは違う

最後になるが、伊藤氏の発言を聞く時に、氏が置かれた立場を心に留めておくことも必要である。

伊藤氏と我々、つまり、米国に在住している伊藤氏と日本に住む我々は置かれた立場が異なる。要するに、日本が中国の管轄下に置かれた時、我々は殺される可能性があるが、伊藤氏にはその可能性がない。そのことは、中国の脅威を考えた場合、それに対して持つ切迫感の大きさの違いとなって表れるだろう。ただし、伊藤氏の名誉のために、強調しておきたいが、過去20年以上前(1998年)から、伊藤氏は切迫感を持って、これまで中国の脅威を指摘し続けてきた。しかし、現実に置かれた立場の違いが、切迫感の違いを生むことは、ごく当たり前である(ナイフを喉元に突き立てられた人を安全な場所から眺めている人に対して、「同じ切迫感を持て」というのは無理である)。

例えば、この立場の違いは、伊藤氏が楽観的な言い回しをしていることが、日本人の立場から見れば極めて深刻な事実であるという風な形で現れるだろう。伊藤氏の言い回しに惑わされず、錯覚を起こすことなく、その言説が意味する深刻さを読み取ることが重要である。

また、このことは、逆説的だが、この立場の違いにより、米国に長期滞在している伊藤氏にとって、重要なことでも、日本に住んでいる我々には、それほど重要ではない(or 伊藤氏にとって重要なほど、我々にとっては重要ではない)という場合がありえる。

たとえば、再び例に出すが、先日の放送での「共和党の(ネオコンの)ポンペオは反中思想を持つ優れた人材である」旨の発言だが、すでに述べたように、ポンペオが大統領になったほうが日本の利益になるとは言えるが、日本の自主独立を考えた場合、ポンペオはネオコン思想であるから、日本の核武装を支持しないであろう。核武装しないと日本は滅亡するのだから、ポンぺオが大統領になることは、日本人にとって手放しで喜べるような出来事にはならない。

しかし、米国に滞在する伊藤氏にとって、反エスタブリッシュメント思想(※ネオコン思想と反エスタブリッシュメント思想は矛盾するのだが)でもあるポンペオが大統領になることは、バーニーサンダースを支持する伊藤氏にとって、米国社会が大きく変わる(※所得格差の問題が解消される)ことにつながる可能性があるので、喜ばしいことなのだろう(アメリカに住む伊藤氏にとっては喜ばしいことが、日本に住む我々にとっては喜ばしくないということも起こり得る。米国民にとっての利益と日本の国益とが一致しないのは当たり前である)。

要するに、ポンペオが大統領になるかどうかの重要性は、伊藤氏に較べれば、我々にとっては低いのである。このことは、2017年にトランプが大統領になった時の伊藤氏のトランプへの高い評価が(※2018年には伊藤氏はトランプを低く評価するようになった)、日本の自主独立に影響を与えなかったことと同じ意味である。伊藤氏がトランプを高く評価していたのは、その反エスタブリッシュメント姿勢であった。

念の為に付け加えておくが、伊藤氏は「トランプが日本を核武装させてくれる」という発言はしていなし(※トランプが日本の核武装を支持する可能性があるという発言はした)、今回もポンペオが日本を核武装させてくれるとも言っていない。言うまでもないことだが、日本の核武装は米国大統領がさせてくれるものではなく、日本が主体的に核武装に向けて動いて初めて実現できるものであるからである。

アメリカの大統領が誰になるかということよりも(※共和党民主党も日本に核武装させないという対日政策は同一)、この与えられた条件の中で、核武装実現に有効な方策を考え出し、それを実際に実行に移すことの方が遥かに重要である。大統領になる前に日本の自主核武装を支持する発言を行っていたトランプだったが、この4年間、核武装に向けた動きが一切なかったという結果から、我々は教訓を学ぶべきだ。4年後の大統領に期待し、その大統領が当選すれば、その4年間に期待する、などということをまた繰り返せば、無意味な8年間を過ごすことになり、日本に残された時間を無駄にすべて使い果たし、丸腰のまま2030年を迎えるという悲惨な結果になるだろう。